( せい / jīng / Essence )


1. 定義


 人体の構成や生命活動を維持するための最基本物質。先天の精後天の精を含む。

1.1. 定義の解説 
 精はいわば生命の源であり、人体の臓腑経絡などの各組織器官を滋潤・滋養する働きやを化生する働きがある。精はその来源により先天の精後天の精に分類される。先天の精は先天の気元気)、後天の精は後天の気宗気衛気営気)へ化す。それゆえ精は人体の構成や生命活動を維持するための最も基本となる物質(最基本物質)であると考えられている。
[文献記載] 他文献の精に関する定義など。
[詳細]


1) 『素問・金匱真言論篇』"夫精者、身之本也"(夫れ精なる者は、身の本なり)
2) 『霊枢・本神篇』"是故五臓主蔵精者也、"(是の故に五臓は精を蔵するを主る者なり)
3) 『素問・経脉別論篇』"食気入胃、散精於肝、"(食気胃に入れば、精を肝に散じ)
4) 『素問・上古天真論篇』"二八腎気盛、天癸至、精気溢写、陰陽和。故能有子"(二八にして腎気盛し、天癸至り、精気溢写し、陰陽和す。故に能く子あり)


2. 精の代謝


 の代謝過程には、精の生成・貯蔵と施泄の三つの段階がある。また、それぞれが相互に関連している。

2.1. 精の生成
 精には生成の来源の違いから、精には先天の精後天の精の二種類がある。

1) 先天の精 ( せんてんのせい / xiāntiānzhijīng / Congenital Essence )

[定義] 父母より凛受した
[解説] 先天の精とは先天的に父母の生殖により授かった胚胎を構成する物質で、元精・元陰・真陰ともよばれる。先天の精は絶えず「後天の精」の補充を受け、腎において腎精として貯えられる。生命産生・人体の成長発育の源である。
[文献記載] 他文献の先天の精に関する定義など。

[詳細]

2) 後天の精 ( こうてんのせい / hòutiānzhijīng / Acquired Essence )


[定義] 水穀より得られる。水穀の精のこと。
[解説] 後天の精とは後天的に飲食物(水穀)を脾胃が消化吸収することで得られる栄養物質のこと。後天の精は全身の各臓腑組織へと運ばれ、それぞれの生理機能の働きをはたすうえでの基本物質となる。また「後天の精」は絶えず腎に集まり、「先天の精」の働きを補っている。人体を構成する物質のほとんどは後天の精によるものであると言える。
[文献記載] 他文献の後天の精に関する定義など。
[詳細]

 人体ののは、先天の精を根本とし、後天の精による絶え間ない補充を受けて、少しずつ充実していく。
 したがって、先天の精あるいは後天の精の不足は、いずれも精虚不足の病理変化を引き起こす原因となる。

2.2. 精の貯蔵と施泄
1) 精の貯蔵
 人体のは五臓に分蔵され、なかでも主に腎中に蔵される。[詳細]

2) 精の施泄
 施泄には二種類の形式がある。
① 精は各臓腑に分蔵され、それぞれの臓腑を濡養する。さらに、化気して各臓腑の機能を推動・制御する[詳細]

② 生殖の精と化し、節度ある排泄により生殖をおこなう[詳細]

1) 『霊枢・天年篇』"以母為基、以父為楯"(母を以て基と為し、父を以て楯と為す) 
2) 『霊枢・決気篇』"両神相搏、合而成形。常先身生、是謂精"(両神相搏わり、合して形を成す。常に身に先んじて生ずるを、是れ精と謂う)
3) 『霊枢・本神篇』:"生之来、謂之精。"(生の来るや、これを精と謂う。)
4) 『素問・厥論篇』"脾主為胃行其津液者也"(脾は胃の為に其の津液を行らしむるを主る者なり)
5) 『素問・玉機真蔵論篇』"言脾為孤蔵、中央土以潅四傍"(脾は孤蔵たりて、中央の土以て四傍に潅ぐと言う)
6) 『素問・上古天真論篇』"腎者主水、受五蔵六府之精而蔵之"(腎は水を主り、五蔵六府の精を受けてこれを蔵す)
7) 『素問六節蔵象論篇』"腎者、主蟄、封蔵之本、精之処也"(腎なる者は、蟄を主り、封蔵の本、精の処なり)
8) 『素問・上古天真論篇』"二八腎気盛、天癸至、精気溢写、陰陽和。故能有子"(二八にして腎気盛し、天癸至り、精気溢写し、陰陽和す。故に能く子あり)


3. 精の機能


 は閉蔵を主り、内にて静かなるものであり、絶え間なく運行するの性質と対照的であることから、陰の属性を持つ。
 精は生殖という重要な作用の他に、濡養・化血・化気化神などの機能を持つ。

1) 生殖
 生殖の精は、先天の精後天の精が合わさり化生し、生殖の作用を備える。
 先天の精は主に腎に蔵され、遺伝の機能を備えている。五臓六腑の精は、いずれも腎に蔵される先天の精を援助し補っている。[詳細]

2) 濡養
 は人体の各臓腑・形体官竅を滋潤・濡養する。
 先天の精後天の精が充実し盛んであれば、臓腑の精も満たされ、腎精もまた充実し、全身の臓腑・組織・官竅は精の充養が得られ、各種の生理機能は正常に発揮される。[詳細]


3) 化血
 転化(化血)することができる。精は血生成の来源の一つである。[詳細]


4) 化気
 へと化生(化気)することができる2)
 先天の精先天の気元気)へと化生することができ、水穀の精は穀気へと化生することができる。穀気は更に肺の吸入する自然界の清気と交わり一身の気となる。気は絶え間なく人体の新陳代謝を推動・制御し、生命活動を維持している。
 したがって、精は生命の根源であり、人体を構成する最基本物質であるといえる。[詳細]


5) 化神
 に化す(化神)ことができる。 精は神化生の物質基礎である。[詳細]


1) 『張氏医通・諸血門』"精不泄、帰精于肝而化清血。"(精不泄なれば、精は肝へ帰りて清血と化す。)
2) 『素問・陰陽応象大論篇』"精化為気"(精は化して気となり)
3) 『素問・金匱真言論篇』"故蔵於精者、春不病温"(故に精を蔵する者は、春に温を病まず)
4) 『霊枢・平人絶穀篇』"神者、水穀之精気也"(神なる者は、水穀の精気なり)
5) 『素問・刺法論篇・遺篇』"精気不散、神守不分"(精気散せず、神守分かたれず)


4. 精の分類


 はその来源により、先天の精後天の精とに分類できる。
 その分布する部位により各臓腑の精や、特殊な機能を有する生殖の精などがある。
 精(一身の精)は先天の精と後天の精が融合し生成され、各臓腑に分蔵されれば臓腑の精となり、生殖のために施泄されるものは生殖の精となる。

1) 先天の精と後天の精
 人体のは、その生成の来源により先天の精後天の精に分類できる。[詳細]


2) 臓腑の精
 臓腑中に分蔵されたを臓腑の精と呼ぶ。[詳細]


3) 生殖の精
 生殖の精は腎精に由来し、先天の精後天の精の援助を受け化生され、生殖の作用を持つ。[詳細]


5. 気・血・神との関係


5.1. 精と血の関係

1) 精血同源せいけつどうげん
 はいずれも水穀の精微より化生充養される物質であり、来源は共通である。両者は相互に補い・転化する関係にあり、どちらも濡養化神などの作用を備えている。精と血のこの種の関係(来源が同じで、相互に補い転化する関係)を「精血同源」と呼ぶ。[詳細]

5.2.精・気・神の関係
 三者の間には相互に依存し利用し合う関係がある。
 精は気を化生し、気は精を生むように、精と気の間には相互に化生しあう関係がある。
 精気は神を生じ、精気は神を養う。精と気は神の物質基礎であり、また神は精と気を統御する。
 したがって、精・気・神の三者は切っても切り離すことができないため人身「三宝」と呼ばれる。

1) 気能生精摂精きのうせいせいせっせい
 気の絶えることのない運行は精の化生を促進している。腎中に蔵される精は、先天の精を基礎とし、後天・水穀の精の絶え間ない充養に頼り始めて充実し盛んとなる。 [詳細]

2) 精能化気せいのうかき
 人体のは、推動作用により気へと化生することができる。 [詳細]

3) 精気化神せいきかしん
 化生のための物質基礎であり、神は精と気の滋養を受けることではじめて正常に作用を発揮することができる。 [詳細]

4) 神御精気しんぎょせいき
 は精気を物質基礎とし、逆に神はを統御する1)[詳細]

 の間には対立・統一の関係がある。
 中医学の形神統一観は養生と予防及び診断治療・病勢の推測の重要な理論根拠である2)

1) 『理虚元鑑』"夫心主血而蔵神者也、腎主志而蔵精者也。以先天生成之体質論、則精生気、気生神;以后天運用之主宰論、則神役気、気役精。"(夫れ心は血を主りて神を蔵する者なり、腎は志を主りて精を蔵する者なり。以て先天の体質を論ずるは、則ち精は気を生じ、気は神を生ず;以て後天の運用の主宰を論じれば、則ち神は気を役し、気は精を役す。)
2) 『素問・上古天真論篇』"故能形与神倶、而尽終其天年"(故に能く形と神と倶にして、尽く其の天年を終え)、"独立守神、肌肉若一。故能寿敝天地、無有終時"(独立して神を守り、肌肉一の若し。故に能く寿は天地を敝し、終る時あることなし)