津液 ( しんえき / jīnyè / Body Fluids


1.定義


 正常な水分の総称。津と液を含む。

1.1.定義の解説
 津液はと同様に人体を構成し、生命を維持するために必要な基本的な物質である。津液のあらわす内容は非常に広範であり、臓腑中のや、血脈中の血を除く、身体の正常な液体物質が「津液」に属す。
 津液は水穀精微から化生する物質のひとつである。その輸布と排泄は、脾の運化作用・肺の宣散作用による通暢水道・腎の気化作用などが主として行う。これらの臓腑の働きが正常で協調していれば、津液は正常な水分として人体を構成し、生命活動の維持を担う。また、津液は性質と分布部位により、津と液に分けられる。
[文献記載] 他文献の津液に関する定義など。

1.2.津と液

1) 津 ( しん / jīn / Jin )


[定義] 津液のうち、質が清稀で流動性が高く、体表・肌肉孔竅などに分布するもの。
[解説] 津とは津液のうち、清稀で流動性の高い、つまりさらさらとして動きやすい性質を持った部分をいう。津は体表・肌肉・孔竅(目・耳・鼻・口)に分布し、これらを滋潤・滋養するほか、脈中に注ぎ込んでを潤す働きがある。
[文献記載] 他文献の津に関する定義など。

2) 液 ( えき / / Ye )


[定義] 津液のうち、質が粘稠で流動性が低く骨関節・臓腑・脳・などに分布するもの。
[解説] 液とは津液のうち、質が粘稠で流動性が低い、つまりねばねばとして動きにくい性質(特定の部位に注ぎ、分散しない)の部分をいう。液は骨関節・臓腑・脳・髄などの組織に注ぎ込み滋養する働きを持つ。
[文献記載] 他文献の液に関する定義など。  

 津液は、「津」と「液」の総称である。「津」と「液」は非常に似通っているが、性状・分布・機能が異なり、概念上は明確に区別できる1)2)
 ただし、一般的には、「津」と「液」は同種の物質とされる、また互いに補い転化できるため、「津」と「液」はまとめて「津液」と呼ばれ、厳格な区分は行われない3)

 「津」は以下のような特徴を持つ。[詳細]

 「液」は以下のような特徴を持つ。[詳細]

1) 『霊枢・決気篇』"腠理発泄、汗出??、是謂津。何謂液。岐伯曰、穀入気満、?沢注于骨、骨属屈伸、洩沢補益脳髄、皮膚潤沢、是謂液"(湊理発泄し、汗出づること??たるを、是れ津と謂う。何をか液と謂う。岐伯曰く、穀入りて気満ち、?沢して骨に注ぎ、骨属屈伸し、洩沢して脳髄を補益し、皮膚潤沢するを、是れ液と謂う)
2) 『霊枢・五?津液別篇』"津液各走其道。故三焦出気、以温肌肉、充皮膚、為其津。其流而不行者、為液" (津波も各おの其の道に走る。故に三焦は気を出だして、以て肌肉を温め、皮膚を充たし、其の津と為る其の流"留"まりて行かざる者は、液と為る)
3) 『類経・蔵象類』"津液本為同類、然亦有陰陽之分、蓋津者、液之清者也;液者、津之濁者也。津為汗而走腠理、故為陽;液注骨而補脳髄、故属陰"(津液は本同類で為るが、然し亦陰陽之分が有る。蓋に津者液之清なる者也、液者津之濁れる者也。津は汗に為って而腠理に走る故陽に属し、液は骨に注い而脳髄を補う故陰に属す。)


2.津液の生成、輸布と排泄


 津液の代謝は、生成・輸布・排泄の内容を含んでおり、多くの臓腑の生理機能が協調してつくり出される複雑な過程である1)

2.1.津液の生成
 津液来源水穀であり、脾胃の運化やいくつかの臓腑の生理機能により生成される。
 以下に津液の生成過程を示す。[詳細]

2.2.津液の輸布
 津液の輸布は、脾・肺・腎・肝と三焦などの臓腑の生理機能の協調より行われる。① 脾 : 脾は津液の輸布に対し、二通りの働きを備える。[詳細]

② 肺 : 肺は宣発粛降を主り、通調水道を主る。[詳細]

③ 腎 : 腎は水臓であり、津液の輸布と代謝に対し主宰的な役割を担っている3)[詳細]

④ 肝 : 肝は疏泄を主り、気機をのびやかにする。[詳細]

⑤ 三焦三焦津液と諸気の通路である。[詳細]

 津液の輸布は主に腎気の蒸化と制御・脾気の運化・肺気の宣降・肝気の疏泄三焦通利により行われる。津液の正常な輸布は、多くの臓腑の生理機能の密接な協調により実現する。

2.3.津液の排泄
 津液の排泄は、主に尿液と汗液の排出により行われる。このほか、呼気と糞便の排出も津液の排泄の一部を担っている。
 津液の排泄は腎・肺・脾などの生理機能との関わりが深く、尿液の排泄は津液の排泄の主な経路であるため、中でも腎の生理作用が重要な意義を持っている。① 腎 : 腎は水臓であり、腎気の蒸化作用は、各臓腑の代謝により生じ、腎や膀胱に下輸された濁液を、清濁の二つに分ける。[詳細]

② 肺 : 肺気の宣発津液を体表や皮毛へと輸送する。津液は蒸騰作用と発奮作用により汗液を生成し汗孔から体外に排出される。[詳細]

③ 脾・胃・小腸・大腸 : 排便時に、糟粕とともに残余の水分を排泄する。[詳細]

 津液の生成・輸布と排泄の過程は、多くの臓腑が協調し完成する。特に脾・肺・腎の三臓による調節が中心的な役割を果たしている5)
 脾・肺・腎およびその他の関係する臓腑の機能が失調すると、津液の生成・輸布・排泄に影響をおよぼし津液の代謝乱し、津液の生成不足・消耗の過多・排泄の障害・津液の停滞など、多くの病理変化を引き起こす。

1) 『素問・経脈別論篇』"飲入於胃、游溢精気、上輸於脾。脾気散精、上帰於肺。通調水道、下輸膀胱。水精四布、五経並行"(飲 胃に入れば、精気を游溢し、上りて脾に輸る。脾気 精を散じ、上りて肺に帰す。水道を通調し、下りて膀胱に輪る。水精四に布き、五経並び行り)
2) 『素問・至真要大論篇』"諸湿腫満、皆属於脾"(諸もろの湿の腫満するは、皆脾に属す)
3) 『素問・逆調論篇』"腎者、水蔵、主津液"(腎なる者は、水蔵にして、津液を主り)
4) 『素問・水熱穴論篇』"賢者、胃之関也。関門不利。故聚水而従其類也。上下溢於皮膚。故為?腫。"(腎なる者は、胃の関なり。関門 利せず。故に水を聚めて其の類に従うなり。上下して皮膚に溢る。故に?腫たり)
5) 『景岳全書・腫脹』"蓋水為至陰、故其本在腎;水化于気、故其標在肺;水惟畏土、故其制在脾。"(蓋し水は至陰と為す、故に其の本は腎にあり;水気に化し、故に其の標は肺にある;水は惟し土を畏る、故にその制は脾に在る。)


3.津液の機能


1) 滋潤濡養
 津液は液体の物質であり、強い滋潤作用を持つ。また津液は豊富な栄養物質を含み、濡養作用を持つ。
 津液の分布と滋潤作用・濡養作用の例を挙げる。[詳細]

 滋潤と濡養の作用は相補相生の関係にある。[詳細]

 津液の不足により、皮毛肌肉孔竅・関節・臓腑や骨髓・脊髄・脳髄などの組織・器官は滋潤と濡養の作用を失い、臓腑・組織の生理機構は破壊にいたる可能性もある。2) 充養血脈
 津液は脈に入り、の重要な組成成分となる。
 『霊枢・邪客篇』では、津液は営気とともに脈中に入り血に化生され、全身を循環し滋潤作用・濡養作用を発揮すると記載がある。[詳細]

 上述1)2)の他、津液の代謝は身体内外の陰陽平衡においても重要な役割を果たしている。[詳細]


4.気・血との関係


4.1.気と津液の関係
 津液の関係は、気との関係に類似している。
 津液の生成・輸布と排泄は気の昇降出入と気化温煦推動及び固摂作用に頼っている。
 気の体内での存在は、血だけではなく、津液にも依存している。ゆえに津液も気の担体といえる。

1) 気能生津きのうせいしん
 津液生成の原動力であり、津液の生成は気の推動作用に頼っている。 [詳細]

2) 気能行津きのうこうしん
 津液の正常な輸布・運行の原動力である。津液の輸布・排泄などの代謝活動から、気の推動作用と昇降出入の運動は切り離せない。 [詳細]

3) 気能摂津きのうせっしん
 固摂作用津液の不要な流出を防いでいる。
 また、津液排泄に対し節度ある制御をし体内津液量を一定に維持している。 [詳細]

4) 津能載気しんのうさいき
 津液運行の担体の一つである。[詳細]

5) 津能生気しんのうせいき
 水穀から化生される津液は、脾の昇清を通じ肺に上輸され、さらに肺の宣降・通調水道により腎と膀胱に下輸する。津液はこれらの輸布の過程において、各臓腑の陽気が持つ蒸騰・温化の作用により気化される。 [詳細]


4.2.津液と血の関係

1) 津血同源せいけつどうげん
 津液はいずれも水穀精微より化生し、ともに滋養と濡養の作用を備えている。両者は互いに転化し補うことができる。このような関係を「津血同源」と呼ぶ。

 津液は以下の方法で常に血の生成(化血)を行っている。[詳細]

 これに対しは臓腑・組織や官竅を濡潤するだけではなく、時に脈外に滲出し津液と化すことで脈外の津液の不足を補う。[詳細]

 津液の相互の転化は、次のように総括できる。
o 津液は脈中に滲入し、営気と結合し血と化す
o 血中の津液は営気と分離して脈外に滲出し、津液と化す

1) 『金匱要略心展・痰飲』"吐下之余、定無完気"(吐下の余、宗気無しと定む。)
2) 『霊枢・決気篇』"中焦受気取汁、変化而赤、是謂血"(中焦気を受け汁を取り、変化して赤きを、是れ血と謂う)
3) 『霊枢・癰疽篇』"中焦出気如露、上注谿谷、而孫脈、津液和調、変化而赤為血"(中焦の気を出だすや霧の如く、上より谿谷に注ぎ、而して孫脈に滲み、津液和調すれば、変化して赤く血と為る)
4) 『霊枢・営衛生会篇』"奪汗者無血"(汗を奪う者は血なし)
5) 『傷寒論』"衄家不可発汗"(衄家は発汗すべからず)"亡血家不可発汗"(亡血家は発汗すべからず)